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「母性」「父性」って何だろう なぜ必要なのか?母親として、父親としてどう関わるべきか?

なぜ必要なのか?母親として、父親としてどう関わるべきか?

「母性」「父性」って何だろう

記事提供:miku

お母さんをサポートしよう、自分自身子育てを楽しみたいと、子育てに積極的に関わるお父さんも増えている一方で、仕事で遅くなって時間がないから、自分も疲れているからと、なかなか育児しないパパも。子どもの心を豊かに育むために、お父さんとお母さんがどのように関わるのが理想なのでしょう?
子どもに必要な父性と母性のあり方について、子育て支援を積極的に行っている佐々木正美先生にお聞きしました。

佐々木正美先生
児童・青年・家族を専門とする精神科医。川崎医療福祉大学教授。子育て協会顧問。30 年以上、保育園、幼稚園、学校、児童相談所、養護施設、保健所などで子どもの臨床に携わり、また自閉症とその家族への支援にも努める。著書は『子どもへのまなざし』(福音館書店)他多数。(取材当時)

受け入れ包み込む母性性 知恵や文化を与える父性性

お世話が必要な乳児期は、子どもの人格形成に最も大事な時期。泣くことで要求を伝える赤ちゃん。「おっぱいかな?おむつかな?」と勘を働かせ、泣き声に応じるお母さん。泣くたびに応えてもらうことで、子どもの心に人と交わり共感する喜びを見出そうとする感情が育まれ、それが他者との関係を築くための基盤となります。
 
幼い頃のお母さんとの関係は、大人になっても大きな影響を持つもの。以前、大学生に「赤ちゃん当時の記憶として、お母さんの匂い、声、添い寝などを、どれくらい覚えているか?」ということをアンケートしたのですが、「お母さんの記憶がはっきりある」と答えた学生は、自尊心、自己肯定感などが高く、「記憶がない」という学生は、自尊心や自己肯定感などが低いという明確な傾向が出ました。乳児期のスキンシップがいかに大事かわかりますね。

子どもの希望や要求を受け入れて、満たしてあげる。この”相手を受け入れ包み込む”のは母性的な愛情表現、いわゆる母性性。一方、「これは良いこと、これは悪いこと」と善悪を教えたり、他人と良い関係を築く上で大切なマナーが身につくよう導くなど、過去から受け継いで来た社会のルール、知恵や文化を与えるのが父性性、父親的な役割です。

子育ての「主役」はお母さん お父さんは盛り立てる「名脇役」

最近は子育てに関わる若いお父さんが増えていますが、何でもお母さんと同じようにする必要はありません。性差というのは生まれながらにあり、妊娠、出産、授乳がお母さんにしかできないように、お父さんにしかできないことがあるのが自然。子どもの育つ環境としては、文化的な男女差がはっきりしている方がいいと思います。
 
育児の主役はあくまでもお母さん。お父さんは名脇役として、主役が輝くように立ち回ること。お母さんが母性性を存分に発揮できるよう協力することが、お父さんの役割として重要です。それは形式的に家事を分担することではなく、

精神的に支えられているという安心感や満足感を、お母さんに与えることです。

子どもが小さいうちは、お母さんの方が一緒にいる時間が長いでしょう。子どものお世話やスキンシップを、お母さんがイライラせず楽しんでやれることが大事。お父さんは帰宅が遅いなら、話を聞いてあげたり、できる範囲で家事を手伝って、お母さんの心や時間をサポートしましょう。相手に対する気遣いができ、信頼し共感しあえる関係なら、子育てでさまざまな問題が生じても、一緒に考え解決していけるでしょう。

母性的な愛情の基盤がある子は周囲を自然に受け入れられる

母性的な愛情・愛着をたっぷり浴びた子どもは一歩成長し、他の人との関わりを求め始めます。そこでルールやマナーを覚える段階に入りますが、お母さんに愛情欲求を受け止められてきた子どもは、周囲の要求を自然と受け入れることができます。「人を叩いてはいけないよ」「順番を守って遊ぼうね」と教えると、比較的すんなりと指示に従うことができる、つまり父性性が伝わりやすいと言えます。大事なポイントは、母性性が子どもに十分に与えられた後でないと、父性性は伝わりにくいということ。

両者のバランスではなく、「先に母性、次に父性」という連続性が、子どもの健全な心の成長には重要です。

近年、親の前でいい子を演じ、園では他の子に乱暴したり指示に従わず、手がかかる子どもが増えています。幼い子どもにとって保育園は小さな社会ですから、すでに社会不適応の傾向です。そのような子どもは学童期になると、友達と調和がとれず不登校になったり、大人になると、引きこもりや社会のルールを逸脱する可能性があり、将来が心配です。
 
親の顔色を伺う子どもは、母性性が不足しています。乳児期からの関わりの中で、要求を受け入れてもらえなかったり、厳しく叱られたことが心を萎縮させ、お母さんに対する恐怖感で本音が出せない。その代わり保育園では、もっと甘えたい、自分をもっと見て欲しいという心の要求が、保育士さんにスキンシップを過剰に求めたり、反発(乱暴)という表現で現れます。

夫婦のパートナーシップが人間関係のお手本になる

幼時期であれば、軌道修正しやすいのですが、学校に入ったら母性性を与えることは難しくなります。なぜなら、学校は父性的な環境だからです。ルールに従わない子を、先生がしつけようとしてもうまくいきません。保健室(学校で唯一、母性的な場)で過ごしたり、物をやたら買って欲しがるのは代償行動で、本当に求めているのはお母さんの愛情。後からでは取り戻せないからこそ、乳幼児期の今が大切と言えます。
 
お母さんが子どもに厳しくあたる時は、子育てのストレスや夫に対する不満が要因のことが多いもの。そんな時こそ、夫婦のパートナーシップが求められます。話をじっくり聞いてもらえるだけでも心が安まり、お母さんにやさしい笑顔が戻るでしょう。

お母さんも辛い時は、「ここから先はお願いね」とお父さんに任せましょう。お互いに頼り合い支え合って、仲良くしている夫婦の姿が、子どもには一番うれしいもの。二人のパートナーシップをお手本に、子どもは豊かな人間関係を築く力を身につけていきます。

主役を輝かせる名脇役は「パパ」! ママのため、子どものため、こんなことから始めよう!

 

「一日どうだった?」とママの話を聞こう!

子どもの世話に追われるママは、イライラも募りがち。仕事から帰ったら、ほんの5分でも、ママの話を聞く時間を作りましょう。解決策をすぐ提示するのはNG。ママに話しをさせて、胸のつかえを吐き出してもらうことが大切です。

 

「頑張ってるね、ありがとう」と心からほめよう!

がんばって育児していても、ほめられたり認められることがないママ。だからこそ、労をねぎらうひと言は心から嬉しいものです。いつも感謝しているという想い、パパの優しい言葉が心の支えとなり、ママはまたがんばれます。

 

気づいたら自分から動いて、家事負担を減らそう!

子どもの世話で手一杯のママ、ちょっとしたことでもパパが動いてくれたら助かります。食べた食器を下げる、洗濯物をとりこむ(畳む)、部屋を片づけるなど、ちょっとした気遣いで、ママの家事仕事が軽減されます。

 

子どもと一緒にダイナミックな遊びをしよう!

肩車をしたり、高い高いをしたり、キャッチボールやサッカーなど、ママがあまりやらないパパならではのダイナミックな遊びは子どもにとっては刺激的。同じ親子体操でも、パパが相手なら子どものテンションもあがります。

 

大事なことは、ていねいに話して聞かせよう!

社会的なマナーやルールは、厳しく言う必要はなく、理由とともに心をこめて伝えることが大事です。「人に迷惑をかけてはいけないね。パパやママも悲しくなるよ」と話せば、子どもはちゃんと親の気持ちを受けとめます。

家事のひとつを、自分の分担にしよう!

お風呂の掃除、掃除機がけ、洗濯物を干す、食器洗いなど、ひとつでもパパが積極的に担当してくれると、ママはその時間、少し楽になります。「何してほしい?」とダイレクトにママに聞くのもおすすめです。

 

休日はちょっと遠くまで 家族を連れ出そう!

ママと子どもで過ごす平日の行動範囲は、公園や児童館、スーパーなどの周辺地域。週末は、ちょっと遠くの公園やショッピングセンターなどへ連れ出してあげましょう。非日常のスポットがママの気分転換になります。

 

子どもと出かけ、 ママの一人の時間を作ろう!

ママが一人で過ごす時間を作って、子育てから一時開放させてあげましょう。ママに美容院に行ってもらったり、休日は数時間でも、パパと子どもで外出してみましょう。パパにと
っても、親子の絆が深まる時間になるはず。

 

パパの得意分野を、子どもに教えよう!

昆虫に詳しい、釣りが好き、アウトドアが趣味、スポーツは何でも……。習い事に通わせるより、パパの得意分野を子どもと一緒に体験して、アドバイスしてあげよう。パパが楽しそうに取り組む姿は子どもの好奇心を刺激するはず。

シングル家庭も「母性+父性」を

母子家庭のお母さんは、母性的な愛情を与えながら、父性的な文化を与える必要があり、父子家庭の場合は、ルールや文化を教える以前に、充分なスキンシップが大切です。いずれにしても「母性性の後に父性性」の順序が守れていれば大丈夫。精一杯の愛情を受け止め、子どもはたくましく成長していきます。

母子家庭のお母さんは「ちゃんと育てよう」と頑張りすぎて、父性性が強くなりがちです。しつけより小言、さらには怒鳴ってしまうことも。無理をせず身近な人の助けを借りたり、一人の時間を持つようにして、肩の力を抜いて子どもと向き合いましょう。自分を大事にすることは、子どもの心の成長にも有効です。

イラスト/サカモトアキコ 取材・文/中野洋子

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