母乳育児の不安と悩みを解消!
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授乳回数や飲ませ方、母乳不足感、卒乳のタイミング……。母乳育児に関する不安や疑問はさまざま。母乳のメリットと不安解消のコツを母乳育児支援に力を入れている小児科医の平林円先生に伺いました。
平林円先生
大阪市立十三市民病院小児科部長。大阪市立十三市民病院は、WHO・ユニセフ認定の「赤ちゃんにやさしい病院」(BFH)。母乳育児支援に力を入れ、子育てサークルへの支援も行っている。共著に『母乳育児のすべて―お母さんになるあなたへ』(メディカ出版)ほか。
「母乳育児が上手くいかない」、「母乳が足りているか不安」という声をよく聞きます。母乳育児は本来、哺乳類のヒトにとっては当然のこと。でも、ストレスや疲れなどで母乳が出にくくなったり、たくさんの情報の中で、難しく考えてしまうママも多いように見受けられます。
母乳育児は、ヒトの子どもが元気に育つためのさまざまな仕組みを備えています。赤ちゃんを感染症から守る免疫物質が含まれていたり、感染症以外にも糖尿病や白血病、突然死のリスクも減少するなど、母乳育児の持つ多くの効果が科学的に解明されてきています。
母乳は、赤ちゃんが上手に吸い付くことができれば、入院中の産後3〜4日目ごろから分泌量が増え、2週間〜1カ月くらいすると安定してきます。この頃になると「乳房が張らないから、母乳が不足しているのでは?」と感じることもありますが、乳房の張りが少なくなるだけで、母乳の分泌量は減っていないことがほとんどです。
「飲んだ後すぐ泣きだす」のも、母乳不足とは限りません。ママに抱っこされておっぱいを飲んで、ウトウトしていたのに、急に布団に寝かされてびっくりして泣き出すこともよくあります。夜泣きも一時期の赤ちゃんに見られることで、母乳不足が原因ではありません。
赤ちゃんとママにとっての 母乳のメリット
赤ちゃんにとってのメリット
◎母乳には6カ月ごろまで赤ちゃんが成長するためのほとんどすべての栄養素が消化吸収しやすい形で含まれています。
◎赤ちゃんを感染症から守る免疫物質が含まれています。母乳を飲んでいる期間だけでなく、赤ちゃんの一生の免疫システムの基礎を作ることになります。
◎気管支炎や肺炎、糖尿病、白血病、突然死のリスクも減少します。
◎知能や情緒の発達にも良い影響があることがわかっています。
ママにとってのメリット
◎乳がん、卵巣がん、糖尿病の発症予防になります。
◎子宮の収縮が促進され産後の回復が早まり、体型の回復も促進します。
ママと赤ちゃんの関係性
◎授乳の度に愛情ホルモンである「プロラクチン」や「オキシトシン」が分泌され、マタニティブルー(産後うつ)が減少し、子どもとの愛着形成が育まれます。
「母乳不足かな?」と思ったら、チェック!
以下の項目に当てはまれば、母乳不足の心配はないでしょう。おっぱいが張っている感じがしなくても、飲んだ後にすぐ泣いても大丈夫です。
□体重が順調に増えている
新生児期(退院から1カ月)は1日20g以上、それ以降は発育曲線のカーブに沿って増えていれば大丈夫。※
※発育曲線の帯に入っていなくても、曲線のカーブに沿っていれば心配ありません。母乳育児の子の発育は人工乳の子に比べて緩やかになることが多いので、標準や平均にとらわれる必要はありません。
□おしっこがよく出ている
母乳は飲んだ分だけ水分として赤ちゃんのおしっこに出ます。こまめにおむつ替えすると、飲んだ量がわかります。
□機嫌がよく、手足をよく動かしている
目が覚めているときに、手足をパタパタ動かし、機嫌がよく元気なら心配ないでしょう。
授乳間隔が空かず頻回授乳になることを心配するママも多いのですが、母乳はミルクのように1日何回と決められるものではありません。母乳は消化もいいので、赤ちゃんが欲しがるなら、欲しがるだけあげて大丈夫です。離乳食が始まる頃には、自然と授乳間隔が空いてくるでしょう。
母乳が十分に出ていれば、粉ミルクは必要ありません。粉ミルクは母乳に比べて腹持ちが良いので、量を増やしていくと、赤ちゃんが乳房を吸う時間が減り母乳分泌が少なくなってしまいます。母乳は最初から順調に出なくても、赤ちゃんが乳房を吸い続けることで出るようになります。母乳とミルクを混合で与える場合は、先に母乳を与えるようにしましょう。
母乳は夜間に直接授乳することで分泌量が増えます。3カ月ぐらいからは朝までぐっすり眠る赤ちゃんもいますが、母乳の出が不安な場合は夜間の授乳を続けてみましょう。寝ている赤ちゃんを無理に起こす必要はないので、ママが寝る時に授乳するなどタイミングを工夫しましょう。朝まで寝てほしいからと夜寝る前だけミルクを足すママもいますが、夜間の授乳が減ると母乳の出が悪くなる原因になります。
母乳育児をしていても、ぐずりや夜泣きなどから、祖父母などに「母乳が足りないのでは?」と言われて、不安になることがあるかもしれません。赤ちゃんの体重が順調に増えていれば、母乳不足ではありません。心配なら小児科や、助産師外来や母乳外来などで相談してみましょう。祖父母世代とはミルクや卒乳に対する意識が異なることもありますから、「体重が増えているので母乳で足りているねとお医者さんに言われたんですよ」など上手に伝えられるといいですね。
母乳育児をしたいと願っても、乳房の形状やお母さんの体調、赤ちゃんとの相性などで難しい場合もあります。赤ちゃんにとってはママの笑顔が何よりもうれしいものです。「何が何でも母乳」とがんばりすぎないことが大切。必要なら、粉ミルクを使いましょう。
母乳でもミルクでも、授乳はお母さんと赤ちゃんの大切なスキンシップの時間です。泣いたら抱っこ、泣いたら授乳と、赤ちゃんの反応に親が応答するという繰り返しの中で、基本的な安心感や信頼感を得て、自己肯定感を育んでいきます。
母乳育児中は食事などにも気を使い、寝不足にもなりますが、ストレスをためないことも大切です。赤ちゃんと一緒にお昼寝したり、家事は多少手抜きして、おおらかな気持ちで母乳育児を続けましょう。授乳中は携帯やスマホをいじらず、赤ちゃんにとってもママにとっても、リラックスできる幸せな時間にしましょう。
母乳育児中は、ママだけの長時間の外出や仕事は難しいですか?
大丈夫。起床直後の一番母乳が出る時に搾乳し、冷蔵(5日間まで)・冷凍(6カ月間まで)保存して赤ちゃんに飲ませてもらいましょう。ママは乳腺炎にならないように、外出時や仕事中でも、適切な間隔で搾乳をしましょう。電動搾乳機はレンタルもできるのでおすすめです。母乳育児中でも、パパに見ていてもらったり、一時預かりを利用して外出してリフレッシュすることは大切です。
母乳はいつまで飲ませてOK?1歳を過ぎると栄養がなくなるのですか?
母乳の栄養がなくなることはありません。子どもが欲しがって、ママがストレスなく続けられるなら、何歳でも大丈夫。次の赤ちゃんを妊娠した場合も、特に医師からの指導がない限りは続けて構いません。
ずっと混合で育てて来ましたが、ミルクのみになりました。母乳とミルクでは、性格や体質に違いは出るのでしょうか?
粉ミルクは赤ちゃんのために様々な工夫がされ、成分も母乳に近づいています。母乳にはメリットがたくさんありますが、性格や体質は乳児期の栄養方法だけで決まるものではありません。赤ちゃんをゆったり抱っこして授乳すれば、ミルク育児でも赤ちゃんとの信頼関係は育まれます。
イラスト/サカモトアキコ 取材・文/椹寛子