食物アレルギーと上手に付き合うコツ
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今や10人にひとりの子どもが持っていると言われている食物アレルギー。そもそも食物アレルギーとは、どのような症状をいうのでしょうか。子どもが食物アレルギーと診断されたら、親としてどのように向き合えばよいのでしょうか。食物アレルギーの診療にくわしい同志社女子大学教授の伊藤節子先生にお伺いしました。
食べたり、さわったり、吸い込んだ食物に対して体を守るために働くはずの免疫のシステムが過剰に反応して起こる食物アレルギー。(※下記注釈参照)。消化の力が未熟な乳児期に発症することが多く、京都市内の保育園での調査では、乳児ではおよそ10 人にひとりが給食で食品を除去していましたが、小学校入学前には100人中2〜3人にまで減っていました。食物アレルギーが治る最も大きな要因が、“子どもの成長”であることがわかります。
乳幼児の食物アレルギーの原因となる食物は、卵、牛乳、小麦が多く、この3つで原因食品の4分の3以上を占めています。
食物アレルギーの多くは、かゆみや湿疹を繰り返す「乳児期発症の食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎」として発症します。
スキンケアと軟膏塗布により湿疹が一時的によくなっても、軟膏をやめると湿疹を繰り返す赤ちゃんの中にはこの疾患と診断されることがあります。早めに小児アレルギー専門医を受診して、正しい診断を受けましょう。
「食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎」では、ママの母乳中に含まれる微量の卵や牛乳のタンパク質により症状がおきることがあります。ママの食事の調整が必要になることがありますが、自己判断せず必ず医師の指示に従いましょう。
離乳食の時期には、原因となる食物を口にした時にじんましんや嘔吐、せき込み、呼吸困難などの即時型反応による症状がでることがあります。すぐに専門医を受診して、きちんとした診断を受けましょう。
わが子が食物アレルギーと専門医に診断された場合、親としてどのように向き合ったらいいのでしょうか。大切なことはふたつあります。ひとつめは、「食物アレルギーは、“子どもの成長”そのものが、治ることに最も大きな役割を果たす」ことを理解すること。食物アレルギーは、ほとんどの場合成長に伴って症状が軽くなります。小学校入学後も食品除去が必要となるのは、乳児期から食事指導を受けている食物アレルギーの子の数%以下です。
食物アレルギーの治療の最初のステップは、他のアレルギー疾患と同様、原因の回避。スタートは、必要最小限の食品除去からです。本来は栄養素として摂り入れるべき食べ物を除去することになりますので、除去の目的が「安全に食べること」であることを忘れないことが大切です。専門医の適切な指導により、除去する期間が短くなります。「安全に食べること」ができるようになるまで定期的に専門医の指導を受けましょう。
食物アレルギーの治療中には、食事の摂り方だけでなく日常生活についても相談することができます。子どももママも相性が良い専門医を探すことが大切です。
食物アレルギーと診断された場合に必要なアレルギー用食品は、牛乳アレルギー児用の牛乳アレルゲン除去調製粉乳(いわゆるアレルギー用ミルク)のみです。
お醤油の原材料は大豆、小麦、塩ですが、醸造の過程で小麦タンパク質は小さく分解されてアレルギー反応を起こさなくなります。そのため、重症の小麦アレルギーでも普通のお醤油を使用できます。
家庭料理はもちろんですが、本格的なお料理にも卵、牛乳、小麦を使用しないレシピはたくさんあります。旬のお魚や野菜を上手に取り入れると、卵、牛乳、小麦を使用しなくても豊かな食生活を営めるでしょう。
現在は、卵、乳、小麦、落花生、そば、えび、かにについては、容器包装された加工食品のアレルギー物質の食品表示が義務づけられています。表示をきちんと確認すれば、加工食品も使用することができます。
※食物アレルギーとは、食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象と定義されます。(日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会作成「食物アレルギー診療ガイドライン2012」)
子どもの食物アレルギーを防ぐためには妊娠中から卵や牛乳を控えたほうがいい?
妊娠中、産まれてくる子が食物アレルギーになったらどうしようと怖がって卵や牛乳をとらないようにする方も見受けられますが、その方法が有効であるというきちんとしたデータはありません。特定の食品を除去するよりも、バランスのよい食事をすることの方が大切です。
食物アレルギーがあっても保育園に入園できますか?
もちろんできます。実際に、京都市内の保育園通園中の乳児の10%くらいは園の給食で何らかの食品の除去を行っています。ほとんどの認可保育所で対応可能ですが、入園前に必ず園に確認しましょう。
気になる症状があったらまずはかかりつけの小児科医に相談すればよい?
その通りです。かかりつけの小児科医の指導を受けても症状が改善しなかったり、十分な説明が受けられない場合は、日本アレルギー学会専門医(小児科)または食物アレルギーの治療経験が豊富な小児科専門医を受診するのがよいでしょう。
災害の時のために、アレルギー用のミルクや対応食の備蓄をした方がいい?
最近は自然災害も多いので、災害時の対応を考えておくことも大切です。各自治体で食物アレルギーの子に配慮した食料備蓄(アレルギー用ミルクを含む)を行っています。いざという時のために、お子さんが安全に食べることができることを確認できたレトルトの主食や副食を用意しておきましょう。内服薬、エピペン は袋にいれて、常に子どもに持たせておくようにしましょう。親子で離ればなれになってしまうことも想定し、小さなお子さんにはアレルギーを起こす食物を書いたカードを薬と一緒に持たせましょう。
ふたつめに大切なのは、食物アレルギーと上手に付き合う方法を親子で身につけること。
普段から「お友達からもらったお菓子は食べる前にママに必ず見せてね」、「食べている時に口がかゆくなったらすぐに出そうね」などと子どもに教えましょう。3歳くらいになると「ママ、これ食べても大丈夫?」と、自分から聞いてくるようになります。治療のためにアレルギーのある食物を与えた時や、誤って食べてしまった時に口の中のかゆみなど軽い症状を経験した場合には、その機会を利用して、薬の飲み方も含めて自分の身を守る術を教えましょう。
食物アレルギーをきっかけに「食生活を見直そう」と考え、日々を過ごしてみてはいかがでしょう。「子どものアレルギーをきっかけにインスタント調味料をやめ、昆布とかつおぶしからだしをとるようになりました。おいしくなっただけでなく、高血圧の祖父の血圧が下がりました」などの声もよく聞かれます。インスタント調味料に含まれるグルタミン酸ナトリウムを控えることになり、高血圧が改善したのです。
食物アレルギーの診断と治療に関する子どもを取り巻く環境整備はここ10年くらいで格段に進み、社会にもより受け入れられるようになってきています。ママやパパは、心配な事があったら専門医に相談し、オープンな姿勢で治療に取り組んでいきましょう。
イラスト/犬塚円香 取材・文/長島ともこ