日本政府は、2030年に向けて温室効果ガスを2013年比で46%削減するという、新たな目標を打ち出しましたね。「カーボンニュートラルな暮らしを考えよう」シリーズの3回目は、低・脱炭素につながる「衣生活」について考えてみましょう。
「衣服って、カーボンニュートラルと関係あると?」という声も聞こえてきそうです。「衣服」そのものを着て歩く分には、CO2をはじめとする温室効果ガスを発生するわけではありません。でも、考えてみてください。衣生活は、糸の材料となる綿や絹などの生産過程、化学繊維なら原油などの資源採掘から精製までの過程、服の製造、流通、購入の際の包装、汚れたときの洗濯、電気やガスによる乾燥、しわを伸ばすアイロン、クリーニング、リサイクル、廃棄に至るまで、多くの工程を伴います。その生産から廃棄までのすべてのサイクルにおいて消費されるエネルギーと、それらに伴い排出される温室効果ガスを減らしてこそ、カーボンニュートラルな暮らしにつながるのです。
近年問題になった、売れ残りの服の大量焼却は、まさに現代の大量生産大量消費の歪みが極まって温暖化を加速させてしまっている姿です。これは生産者側だけの問題ではなく、消費者側にも反省すべき点は大いにあります。この反省に基づき、最近は過剰在庫をもたず、服の受注生産をする業者さんも増えてきています。服のリユースも大盛況ですよね。
クローゼットやタンスがパンパンになっているなら、まず、着ない服を整理しましょう。リユース可能なものはできるだけリユース、シミのついたものなどはそのままごみにするのでなく、リメイクしたり、切ってお掃除につかったりして、最終的にリサイクルに出します。
そして、買う服を少なくすること。買う服は着回しのきく、長く着られるものにする。
リサイクルにはエネルギーが必要ですから、できるだけ長く着られて、リサイクルしないで済む服がカーボンニュートラルな暮らしの理想だと、私は思います。
洗濯も、着たら洗うのではなく、汚れたら洗うことにして、回数や、水と洗剤の量を少なめにしましょう。乾燥も、できるだけ自然乾燥が理想です。ただ、子育てや介護で追われる人にはとっては助かるものなので、もし乾燥に電気エネルギーを使うのならヒートポンプ式やヒートリサイクル式など省エネの乾燥機にしましょう。その場合、乾燥機によりできてしまったしつこいしわをアイロンで伸ばす、なんてのは何ともエネルギーの無駄!乾燥機はかけすぎないように気を付けます。アイロンも必要最小限になるよう、よくしわを伸ばして干します。アイロンがいらないシャツなどもありますね。
写真は、このエッセイを始めた頃にご紹介した、私の母がくれた手編みのセーターです。私が40代の頃、母がクリスマスプレゼントに編んでくれたセーターで、この胴部分は、元々は、私が生まれたときの「おくるみ」だったものです。そのおくるみを赤ちゃんだった弟と妹が着た後に、家族のベストなどに編みなおされ、約半世紀後に今のセーターに編みなおされて、私のところにやってきたのでした。その後母は他界しましたので、もう、編みなおされることはありません。純毛のこのセーターの糸は、半世紀以上経た今も、ふわふわなんですよ。今も大切に着ています。
私は一般の方向けの省エネや低炭素の暮らしの講演の時に、時々このセーターをご紹介するのですが、それはなぜかと言えば、この母の手編みのセーターのおかげで新しいセーターは買わずにすみますので、資源消費やCO2の発生抑制:リデュース(REDUCE)になり、半世紀前の毛糸を何度も再使用しているためリユース(REUCE)でもあり、私の大切な宝物だから温室効果ガス排出を伴うリサイクル(RECYCLE)には回さない、つまり3Rのお手本であるばかりでなく、その分発生するエネルギーやCO2が少なくてすみ、脱炭素に貢献しているといえるからです。
また、私は時々着物を着ますが、祖母から母、母から娘へ、また友人・知人へと受け継がれていく着物はまさに温室効果ガスの発生抑制につながり、普段の洗濯はせずに襦袢の替襟のみの洗濯で済ませられるところなど、とっても低炭素な知恵だと思います。捨てる水は少なく、衣類の傷みも最小限に抑える工夫があり、洗濯を最小限にしながら、常に清潔を保つのですから。
最新の試みと、昔の人の知恵の両方を、カーボンニュートラルな衣生活に活かしていきましょう。人のぬくもりが、そのまま地球への愛情につながっていくと思います。
(2021年6月 林 真実)